"「世界の終り」の風景" 〜Location 解説〜





 "はじめに"に書いた通り、庭園解放の日('02年4月14日)に国分寺にある日立中央研究所を訪れました。村上春樹氏の経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」のあった場所からは歩いて来れる距離にあります。この研究所は1942年に設立され、その敷地面積は207000平方メートルと東京ドームの約5個分に相当します。樹木は27000本(ケヤキ、桜等123種類)が存在し、野鳥は40種類(ムクドリ、マガモ、コジュケイ等)が生息します。

 村上春樹氏は「回転木馬のデッド・ヒート」の"はじめに"でこう書いています。
 「僕が小説を書こうとするとき、僕はあらゆる現実的なマテリアル−そういうものがもしあればということだが−を大きな鍋にいっしょくたに放りこんで原形が認められなくなるまでに溶解し、しかるのちにそれを適当なかたちにちぎって使用する。」
 このことからも村上春樹氏が何かあるものを直接的に作品の題材にすることはないことが分かりますが、この日立中央研究所が「世界の終り」の世界観になんらかの影響を与えた可能性は高いと考えられます。その理由としては村上春樹氏が国分寺で経営してた「ピーター・キャット」のすぐ近くにこの研究所があること以外に、「世界の終り」の「街」とこの研究所の地形的な類似性が挙げられます。
 まずこの研究所は周りを高い壁に囲まれていて、最も高いところでは6〜8メートルに達します。これに比べ作品中では門番が壁について「高さは七メートル」と言っています。
 また所内にはが流れていても幾つか架けられています。そしてこの川は南の大きなたまり(池)に注ぎ込みます。この池の水は壁を抜けて野川(多摩川に注ぐ)の水源となっています。作品中でも川は街の中を東から西に流れて南に曲がった後、たまりに注ぎ込み、壁を抜けます。
 所内に入ることの出来る正門守衛さん(左の建物にいる)が番をしているために普段の日は関係者以外は立ち入ることが出来ません。ただ正門のある方向は真東で、作品中では門番が「昔は東門もあったが、今では塗りつぶされている。」と言っていることから、所内の正門の位置は作品中の塗りつぶされた門の方角に相当します。ちなみに研究所の西側(作品中で門のある方角)には門は存在しません。他に北門が一つ存在するのみです。
 建築物に関しては、研究棟を中心とした殺風景な建物が所内の中央部から北側にかけて存在しており、作品内の「街」の中の建物が存在する場所と一致します。"僕"の住む白い官舎のイメージに近い建物もあります。発電所まであります。もちろん広場も存在します。
 さらに所内では南から北東にかけて広大な森が存在します。同様に作品中では北東に「林」、南東に「東の森」が存在し、自然の多い部分の方角も一致しています。
 このように地形的・地理的類似点は探せば探すほど数多く見つかります。この場所で村上春樹氏がインスピレーションを得て「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を生み出した可能性を考えながら所内を散策してみると想像力がかき立てられ心躍るものがあります。「千と千尋の神隠し」にとっての「江戸東京たてもの園」といったところでしょうか。是非、年に2回ある庭園解放の日にこの場所を訪れてみることをお勧めします。解放日以外の日に侵入を試みた場合、門番につかまり元の世界に戻れなくなってしまうかも知れませんが・・・。







"「ハードボイルドワンダーランド」の風景" 〜Location 解説〜




<地下鉄出口>

 作品では"私"とピンクの娘は銀座線の青山一丁目駅から地上に出ます。ではどの位置から駅のプラットフォームに上ったのでしょうか?
(参考)銀座線の駅の並びは次のようになっています。「渋谷方面←外苑前−青山一丁目→銀座方面」
 老博士はやみくろの世界から地下鉄への出口について「地下鉄銀座線の外苑前と青山一丁目のちょうどまん中あたり」と言っています。また青山一丁目のプラットフォームに関しては、銀座方面行きのフォームから上ったと作品中にあります。両者を総合すると青山一丁目駅の銀座方面行きのプラットフォームの渋谷側の端から上ったことになります。"私"とピンクの娘が歩いてきた方向を写真で見るとこういった感じになります。「簡単に乗りこえることができそう」な「」もちゃんとあります。
 この後、"私"とピンクの娘は「若い駅員」と切符のことでひともめした後、地上に出ます。地上に出た後、「我々はビルの軒先に立ってアクロポリスの遺蹟でも眺めるみたいに長いあいだ街の風景を茫然と眺めていた。」とありますが、青山一丁目駅の出口でビル街の方に出るのはこの1番出口のみです。ちなみに「ビルの軒先」というとこんな場所がすぐ近くにあります。「雨に濡れた交叉点を色とりどりの車の列が往ったり来たりしていた。」とありますが、一番出口のある青山一丁目交叉点を写真に撮るとこんな感じになります。



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<日比谷公園>

 作品中では"私"は図書館の女の子を誘い、車で日比谷公園まで行き、二人で芝生に寝転んでビールを飲みます。そして"私"が「雲がひとつもない」と言うと図書館の女の子は「あそこにひとつあるわ」と言って日比谷公会堂の少し上あたりを指さした、というシーンがあります。日比谷公園内で公会堂が見える芝生はこの場所だけです(茶色い建物が日比谷公会堂)。
 作中では図書館の女の子と別れた後、"私"は売店でポップコーンを十袋買い、ベンチに座って鳩にポップコーンをまきます。すると鳩の群が「十月革命の記録映画みたいに」いっぱい集まってきた、とあります。先の写真の芝生から最も近い公園内の売店がこれです(すぐ近くにベンチもあります)。僕は売店でポップコーンを十袋も売っているものなのかな?と疑問を感じていたのですが、この売店、誰がこんなに買うんだ?というくらいにポップコーンだらけです(写真その1その2)。十袋買っても補充する必要がなさそうなくらいの量です。念のために売店のおじさんに「このポップコーンは公園内で鳩にまいてもいいんですか?」と聞いてみると「ええ、いいですよ」と即答でしたので、僕もポップコーンを一袋(130円)買って鳩にまいてみることにしました。作品通りにベンチに座ってまいてみたのですが、ポップコーンって軽すぎて意外と遠くまで飛ばないんです。鳩は警戒心が強いので、当然僕の足元にばらまかれているポップコーンには近付いてきません。僕は鷲づかみにしたポップコーンを思いっきり振りかぶって投げてみたり、手裏剣のようにして投げたりしてみたのですが、さすがに人も多く、前の噴水に座っているカップルに大笑いされたので恥ずかしくなってやめてしまいました。ただでさえ鳩が大量に集まってきて大注目なのです。最初は「鳩のお兄ちゃんだー!」と近寄ってきてくれた小さな女の子も、僕がやけになって立ち上がり鬼の形相でポップコーンを全力投球し始めたら反転して逃げてしまいましたし(涙)。結局、地味にスナップを効かせて放り投げるのが効率的なことが分かり、なんとか一袋まき終えました。「十月革命」はこんな感じでした(ちょっと迫力に欠ける・・・)。一袋まき終えるのにも軽く5分はかかりました。"私"は十袋買ったうちの九袋をまいたと作品中に書かれてありますが、袋ごとまいたのではないでしょうか?まさか残り少ないわずかな時間のうちの45分間(5分×9袋)を餌やりに使ってしまうなんて考えられませんから。
 マップはこちらになります。



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<公衆電話>

 作品中では"私"はベンチから立ち上がり、売店で煙草とマッチを買うついでに売店の公衆電話から自分の部屋に電話をかけます。僕はポップコーンを買った先の売店のおじさんに「ここら辺に公衆電話はありませんか?」と尋ねると、売店の横にあると言うのです。まさに作品通りです。しかも煙草と並んで公衆電話が置いてあります。
 こういう体験をする度に、村上春樹氏が実際の地名を作品内に登場させる時にはその場所を必ず訪れて念入りにチェックをしているに違いないと確信してしまいます。



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<晴海埠頭>

 作品では最後に"私"は晴海埠頭に車(トヨタ・レンタカーで借りた白のカリーナ1800GTツインカムターボ)で向かいます。港に着いた"私"は「人気のない倉庫のわき」に車を停めます。
 晴海埠頭に実際に行ってみて分かったのですが、非常に倉庫の多い場所です。電車の便も悪く観光地というわけではないのですが台場方面も望むことができます。それだけに"私"がひっそりと最期を迎えるのには適した場所のように思われました。作品中では正面に「荷を下ろし終えて吃水線の浮かびあがった古い貨物船」が見えるとあります。僕は実際に古い貨物船が見える「倉庫のわき」で撮影を行いました(マップ)。
 この写真に関してはどうしても妥協できない部分がありました。「白のカリーナ1800GTツインカムターボ」です。どうしてもこの車を含めた画像にしたかったのです。しかし問い合わせてみたところ、現在トヨタレンタカーではターボ車のレンタルは行っていませんでした。というかそもそもこの車種は古すぎるので、あるとしても廃車置き場にしかないというレベルの代物です。という話をレンタカー会社で働いている後輩に雑談まじりにしてみたら、なんとその後輩、「車を運ぶための大型車なら会社から持ち出すことができますよ」と言うのです。その瞬間、僕は東京の廃車置き場巡りをすることを固く決意しました。ちょっとこの続きはここでは書けません(汗)。一つだけ書いておくと写真に映っているのはまぎれもない正真正銘の「白のカリーナ1800GTツインカムターボ」です。
 晴れた日に晴海埠頭の倉庫を訪れてみるのもいいかもしれません。電車の便が悪いので、車の方が楽だと思います。それが白のカリーナ1800GTツインカムターボなら言うことなしですよね。"おすすめツアーコース"も御参照下さい。



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