阿美寮探索レポート(by RYUさん)




最初に断っておくと、『ノルウェイの森』(上)の第六章からの記述どおりに行動すると、阿美寮に到達することは絶対にできない。それはつまり、

1 三条にある私鉄バスのターミナルから十一時三十五分に出る十六番のバスが存在しない。
2 三条から十六番のバスに乗ると、40分あまりで終点に到着してしまう(目的地まで一時間少しという記述と一致しない)
 
という点に問題があるからである。
以上のことから、記述を全面的に信用して行動することはできない。やもなく私は、風景の描写と時間の流れにできる限り忠実に、行動してみることにした。



☆十六番のバス

三条にある私鉄バスのターミナルとは京阪電車の三条駅にあるバスターミナルのことである。私はまず京阪三条に向かい、十六番のバスの乗り場を確認する。確かに一番端の停留所にあった。
ここで最初の問題が発生する。十六番のバスは早朝と夜しか運行していない。しかし同じ停留所から出る十七番のバスがほぼ同じ路線を走っている。そこで、阿美寮に向かうとしたらそれは十七番のバスであると考えられる。





☆鴨川を北上する

十七番のバスは鴨川沿い(川端通り)を北上する。杉林と集落をやり過ごし、ワタナベトオルは市内を出発して40分の地点で五、六分バスの待ち合わせをするのだが、十七番のバスはここで終点の大原に到着してしまう。
市街から40分、大原までの行程は確かに山の中を走るルートではあるが、人家も畑もないというわけではない。これではあまりに阿美寮のイメージとかけ離れているように感じる。



☆もう一台のバス

ここでさらに山中を北上するバスのルートの存在が明らかになる。出町柳から大原まで十六番と同じ路線を走り、さらに北上する十番のバスである。大原のターミナルからこの、滋賀県朽木村行きのバスに乗り継ぐことにする。







☆さらに北へ

大原からさらに北へ行くと、一転して辺りは深い山の景色に変わる。すでに滋賀県である。そうして山沿いを15分ほど行ったところに「花折峠口」という停留所がある。
そこは見渡す限りの山に囲まれた場所で、記述どおり人家もなく、畑もなく、あるのは登山ルートの入り口だけである。三条から大原までの40分、バスの乗り継ぎをして大原から15分、計1時間あまり、それは本文とぴったり一致したものと考えられる。つまりここが、阿美寮への入り口なのではないだろうか?







☆登山ルートを登る

花折峠へ向かう登山ルートを登る。道の右側は確かに雑木林であるが、左側に谷川は見当たらない。わずかに車の通った跡が見受けられる。登るにつれて辺りは薄暗さを増し、鳥の鳴き声と獣の足跡だけが目に止まる。15分を過ぎても景色に変化はなく、30分になろうかという頃、「花折峠」と書かれた石碑を見つける。もう一つ、「葛川少年自然の家」と書かれた看板。しかしそれは、9キロも先にある施設であるらしかった。



☆探索終了

やはり阿美寮は発見できなかった。しかし、村上春樹の頭の中で描かれた阿美寮は、やはりこの辺りの山中を思って書かれたのではないかと思う。花折峠へ向かう山道は清々しく、山中はまさしく異境であった。それに加えて今は初春とはいえ未だ冬であり、進むにしたがい雪深く、雪が山を下界から隔てているように感じられた。