トランジット・イン・バンコク(バンコク0泊の旅)

 イタリアへ行くのにタイ航空を利用しました。そのときのトランジット記です。バンコクの旅行記というにはおこがましいですが。
行きは約8時間、帰りは約16時間、バンコクでの待ち時間があったので、思い切って街へ出てみることにしました。
ガイドブックも何もない旅、持っているのは行きに関空の某クレジット会社のデスクでもらった地図だけでした。


タイ人の親切に甘える

出発前に見た某HPで、空港から市内に出るには鉄道でホアランポーン駅まで行って、そこから出ている舟に乗っていけばいいという情報を仕入れていたのでバンコクに着くとさっそく鉄道に乗り込みました。バンコクの空港前にはすぐ鉄道の駅があるのです。1時間くらい乗ったでしょうか。列車は時々民家すれすれの所を走ったりして、車窓の風景はなかなか面白かったです。やっと着いたホアランポーン駅はバンコクのターミナル駅らしい。ホームに焼鳥屋があったりして楽しい。
        
      タイの鉄道                   ホームの焼鳥屋            ホアランポーン駅

駅を出るとさっそく川のほうへ出て舟を探しましたが、乗り場が見つかりません。しかも、この川というのが小さくて、とても定期船が通っているようには思えない。タクシーらしきものも走っていないし、バスに乗るといってもどこへ行ったらいいのかわからないし、橋の上で途方にくれていると、突然「May I help you? アナタハニホンジンデスカ?」と話しかけられました。日本語で話し掛けてくる男…怪しい!と思いながらも背に腹は変えられないので「ここから船が出ているはずなんだけど…」と尋ねると「今は舟は出ていない」とのこと。「どこに行くのか?」と聞かれ、実はどこに行くという目的もなかったので、「トランジットでちょっと街にてできただけ。すぐに空港に戻らなくてはならない。どこか食事ができるところはない?」と聞くと、「食べるところはたくさんあるけど…どんなものが食べたい?」「駅の近くで安くて美味しいところがいい」と言うと「じゃあついておいで」と案内されたのは屋台風の店。焼鳥と焼き飯をおごってくれました。彼はチャロンといい、駅の係員とか。32歳の独身で家族は5人、日本の神奈川県に一年居たことがあるとか、そういう話を日本語で話していました。最初は怪しい奴かと思ったけど、どうやらいい人だったよう。とにかく日本語を喋ってみたいようでした。タイ語を教えてもらったり、ひらがなとカタカナを上手に使い分けてメッセージを書いてくれたりとても楽しいひとときを過ごしました。あっという間に時間がたち,そろそろ空港に戻らなければなりません。チャロンは空港行きの路線バスをおしえてくれたばかりか、何とバス代まで出してくれました。悪いと思ったものの小銭を持っていなかったので好意に甘えることに。「気をつけて。今度はゆっくりタイに遊びに来て」と言う彼と握手をして別れました。初めて訪れたタイ、しかもトランジットという短い時間でこんなに現地の人と触れ合うことができたなんて…タイ、大好き!好印象を抱いてイタリアに向かったのでした。


あわや宝石詐欺に!でも、終わりよければすべてよし。

イタリアからの帰りのトランジット時間はなんと16時間。ほぼ一日観光できるっ!とばかりに街へ繰り出しました。今回は2度目のタイ(?)だけあって少し慣れ,空港バスで市内へ出ることに。バスだと時間がかかると聞いていたけどリムジンバスはすいすい市内へ。これじゃこの前の鉄道より早いじゃん!と思っていたら繁華街に入ったとたんにのろのろ運転に。「さあどこで降ろしてもらおう?やっぱり王宮とエメラルド寺院は行かなくちゃ…」と思いエメラルド寺院近くのバス停でおろしてもらいました。そこはだだっ広い空き地のような場所。その空き地を通ってエメラルド寺院に向かって歩いていると一人の男に英語で話し掛けられました。「どこへ行くのですか?王宮は今日は閉まっていますよ」「ええっ!エメラルド寺院もですか?」「残念ですが今日は閉まっています。今日は王室の行事がある日なのです。あなたは日本人ですか。代わりに他の見どころを教えてあげましょう」
と言って私が持っていた地図を手にとって印をつけました。「スタンディングブッダ、大理石寺院、○○寺院、それから今、アメージング・タイランドという観光キャンペーン中なので外国人は宝石などを安く買うことができるからここへ行って見るといいですよ。フリーフード,フリードリンクです。行ってみますか?」どうしようか迷っていると、自称中学校の英語教師というその男はトゥクトゥク(バイクタクシー)に声をかけ「この人を案内して欲しい」と先ほどの印をつけた地図を渡しました。なんだか男のペースに乗せられっぱなしだけど王宮もエメラルド寺院も閉まっているなら仕方ないか。トゥクトゥクも全部廻って20バーツ(約60円)ほどだし、第一、トランジットでたった一日の観光なのだ。迷っている暇はない。結局、男に勧められるままトゥクトゥクに乗る事にしました。トゥクトゥクに乗るだけでもバンコクらしい体験のように思えたのです。
トゥクトゥクに乗ったは良かったが・・・

 トゥクトゥクの乗り心地は最悪。スピードは遅いし、お尻は痛いし、車の排気ガスをまともに吸い込んでのどは痛くなるし…。とても、人には勧められません。最初に連れて行かれたのは金ぴかの大きなスタンディング・ブッダのある寺。安っぽい品のない仏像だなと思ったが、一応記念と言うことでその場にいたオーストラリア人男子学生2人組に写真を撮ってもらいました。次に行ったのが大理石寺院。何か地味なお寺だなーと思いつつ入ろうとすると、またもや別の男に呼び止められました。「今日はこの寺は閉まっていますよ。王室の行事がありますから」「ええっ!ここも?」驚いているとすぐ後からさっきのオーストラリア学生がやってきました。彼らもどうやらトゥクトゥクで同じコースを廻っているよう。やっぱりちゃんとした観光コースなんだ、とちょっと安心。彼らと一緒にその自称、高校の英語教師(またかよ?)と言う男の話を聞きました。「これからどこに行く?」と聞くので「ここ」と印のついた地図を見せると男は「おお!君達はラッキーだ。今年はタイの観光年だから外国人観光客へのイベントがたくさんある。ここは外国人は宝石が安く買えるから絶対行くべきだ。フリーフード・フリードリンクだし。」と言います。王宮前広場であった男の言うことと酷似していると思いつつ行ってみることに。途中、いくつかのしょぼい寺を廻った後、その問題の店に着きました。


大きなショッピングセンターのような所を想像していたのに、そこは小さなしょぼい宝石店。「ここかよ?」と思いトゥクトゥクの運転手に「ここはもういい」と言うと「どうして?さあ、中に入って」という素振り。仕方なく中に入ると身なりのいい店の主人が揉み手をして迎えました。「ようこそ。あなたは日本人ですね。私の息子は早稲田大学に留学しています。あなたにはサービスしますよ。さあ、コーヒーを出してあげて。」コーヒーを飲む間も男はとうとうと英語でしゃべりつづける。いい加減うんざり。なんでバンコクまできてこんなところで時間をつぶさなくてはならないのだ?ガラスケースの中の宝石は高いくせに安っぽい。「この店は外国人の信用のある店です。証拠を見せましょう」といって出してきたのは…
なんとパスポートのコピーの束だった!中身は日本人のパスポートのコピーがいっぱい!
「あなたのパスポートも見せてもらえればここに書いてある値段よりもずっと安くしますよ。日本に買って帰って売れば何倍もの値段で売れます」げげっ!ひょっとしてここは超ヤバイ場所?!その時、店内に日本人の若い男がいるのを発見。近寄っていき話し掛けました。「あなたはどうやってこの店に来たんですか?あなたもトゥクトゥクでですか?」聞くと「そうです」との答え。「今、買おうかどうか考えています。さっきは仕立て屋へ連れて行かれたけど高いので買えなかった」「この店、絶対高いですよ。日本と変わらない。いや、日本のより品質が悪いし買わないほうがいいですよ。パスポートのコピーなんか取ってるのも怪しい」と私が言うとその若い男は妙に煮え切らない反応。店の主人がいらいらして「2人で日本語で喋ってばかりいては私たちにはわからない。この素晴らしい宝石を見てくださいよ」ここまで来て、ひょっとしてこの日本人もグルか?と思い至り、「私は宝石なんか欲しくない!」と言い残して急いで店の外へ出ました。

幸い、トゥクトゥクの運転手はまだ待っていました。一体ここはどこ?とにかく最初の場所に戻ろう。「エメラルド寺院へ行って!」運転手はキョトンとしていたがやがて走り出し、またもやしょぼい寺へ。「違う!私が行きたいのはエメラルド寺院!」しかし、運転手は英語がわからない振り。私もタイ語はわからない。ガイドブックさえ持ってないし。地図を指差してもしらばっくれるので、私もとうとう頭にきたら、運転手はさすがにまずいと思ったのかわざとらしく他のトゥクトゥクの運転手に聞いたりしてやっとエメラルド寺院入口へ。そこは観光客でいっぱい!閉まってなんかいない。やられた!まんまと一杯食わされた!。あいつらみんなグルだったのだ!王宮前広場であった男も、大理石寺の男も、宝石店の主人と日本人のサクラも、このトゥクトゥク運転手も!別に被害にあったわけじゃないのに悔しくて仕方がない。貴重なバンコクの一日を無駄に時間を過ごしてしまったのだ。あまり腹が立ったので運転手に八つ当たり。「あなた私をだましたね。10バーツしか払わないよ!」「おねーさん,それはないよ」みたいなことを言っているが怒ってはいないようなので、無理やり10バーツを押し付けるとさっさとトゥクトゥクを飛び降りました。いやー、何という体験!気を取り直してエメラルド寺院に入場。今まで廻ったしょぼい寺はなんだったのかと言うほど絢爛豪華。観光客も一杯。しかし、なぜか心を惹かれるのは何もなく、ただ金ぴかでけばけばしいだけと言う印象でした。見ると、あのオーストラリア人2人組もいます。ふと目が合うと、今までのフレンドリーさはなく目をそらします。おそらく彼らもだまされていたことに気づいてここまで戻ってきたんだろうな。王宮も外側だけ見学した後、さあ、これからどこに行こう?ガイドブックなしで?


   エメラルド寺院はけばけばしいだけ?

 寺めぐりはもう飽きたので、街を見てみたい。トゥクトゥクやタクシーには乗りたくないからボートでオリエンタルホテルのあたりまで行ってみようと思い王宮から歩いてチャオプラヤー川に向かいました。途中で何人ものトゥクトゥク運転手が声をかけてきます。「スタンディングブッダ見に行かないか?」やっぱりこいつらみんなグルだ!
ボート乗り場は小さな市場になっていていろいろな物を売っています。ボートのチケット売り場もあるがどれに乗っていいのかわからない。街へ出たいだけだから観光船には乗りたくないし…途方にくれていると「May I help you?」と声をかけられました。見ると制服を着たさわやかな女子高生。「オリエンタルホテルへ行きたいんだけど」「じゃあ、私と同じボートだから一緒に行きましょう」と言ってくれました。「切符はどこで買うの?」「ボートに乗ってから買えばいい。あなたは日本人?私の友達はX-JAPANのファンなのよ」「私の名前はアーン。E・A・R・N」とよどみのない流暢な英語を話す彼女はとても利発な印象の少女でした。いいなあ。若い女の子と話すのは。今までうさんくさい男達ばかりだったから心が洗われるよう。「今日は休日だけど明日のアメージング・タイランドのイベントの練習のために登校してたの。良かったらあなた、明日私の学校に来ない?」と誘われましたが残念ながらタイはトランジットで寄っただけで、今夜日本に帰らなければならないことを伝えるととても残念そうでした。「タイはどう思う?」と聞かれ「うーん、まあまあ」と答えるとアーンの顔がちょっと曇ったので「エメラルド寺院はとってもきれい」と付け加え「でも、トゥクトゥクの運転手や宝石屋に騙された」と下手な英語で言うと通じたのかどうか、納得したようでキャンデーをくれました。ボートが来たので二人で乗り込みました。川は泥色でちっともきれいじゃないけどボートの上で風に吹かれているとやっぱり気持ちがいい。
ボートから「暁の寺」も見えちょっとしたリバークルーズ気分。ボートの集金が来たので払おうとしたら小銭が全然ない。お釣りなさそうだなーと思っていたら「私が出してあげる」とボート代を払ってくれました。ひゃー恥ずかしい。社会人の私が高校生に払ってもらうなんて。慌てて持っていたお札をアーンに手渡そうとすると「いいからいいから。気にしないで。私はあなたが好きだからこうしただけ」と受け取りません。どうしたものか、そうだ、住所を聞こう…と思っていたら「ほら、オリエンタルホテルが見えてる。次で降りるのよ」と言われ慌ててしまいました。オリエンタルホテルで降りる人は多く、アーンとゆっくり挨拶もできないまま押し流されるように降りました。桟橋で「サンキュー!アーン!」と叫んで手を振るとアーンもいつまでもこちらに手を振ってくれました。とても、心が温まり、さわやかな気分にさせてくれたアーン、ありがとう!
     

 利発な女子高生、アーン                                ボートから見た「暁の寺」

アーンと別れてちょっと寂しくなりました。オリエンタルホテルで降りたもののホテルに用はない。シーロムロードをぶらぶら歩き、お腹がすいたのでシーロム・ビレッジでタイ式焼きそばを食べたり、お店を冷やかしたり。そのうちマッサージ店が集まっている場所があったのでタイ式マッサージに挑戦。薄暗い室内はカーテンで仕切られていて妙な雰囲気でした。タイ式マッサージはなんだか柔軟体操みたいで骨がポキポキ。気持ちがいいような悪いような…首の骨が痛くなったのでかえってその後で肩がこったような気がします。マッサージは台湾式のほうがいいなあ。マッサージが終わると外は日が暮れていてバッポン通りには夜店が一杯出ていました。外から風俗店を覗いてみると薄着のお姉さん達が細い金属の柱の周りでクネクネ。お客はいません。バッポンの夜はまだまだこれからなのでしょう。再びシーロム通りに出て空港バスで空港に戻りました。
バンコク、ほんのちょっと垣間見ただけだけど奥深い街。いい人、悪い人入り乱れて濃い体験ができました。今度来るときはちゃんと観光したい。
そして、あの利発な女の子、アーンにもう一度会って話がしたいなあ。